<< #0028 | main | #0030 >>

#0029

 




中学の頃には、ここで溺れて死んだんだ。

もういいや、と決めた瞬間は、いつまでも脳裏に残るものである。

生徒会の副会長で、一番ショートの佐藤くんは、明日の緊急集会でみんなが泣い
ている姿を、のんきに思い浮かべていた。
そんなことができるほど泳ぎには自信があって、数十分は保てたらしい。溺れな
がらも助けられるつもりなんて、あまりなかった気がする。自力で砂浜まで戻り
たいという、くだらないプライドだけがあった。

サーファーの人に助けられて、命拾いしたその時でも、よくわからないが悔しい
想いをしていた。溺れた人を助けるために溺れた情けなさで、一杯だった。その
溺れた人は溺れてから30秒で助かった。僕だけ何十分と沖に漂っていた。

この現実が夢かもしれない、ぼやけた頭で何度もそう思ったが、次の日の朝、ふ
つうに目覚めることができた。
目を開けた時の家の天井や、壁に掛けられた兄貴の釣り竿とか。溺れている時の
景色よりも、今はそちらの映像の方がとにかく鮮明に浮かぶ。

あの時、一度は死んだんだ。

そんなことを思うと、今ある生活なんて、とてもやりやすいと思える。けど本当
に僕を救ったものが、あのプライドでもあったことを、やりやすいと思っている
僕は、決して忘れてはならない気がする。


#0029-00-01 /  Heavy sea

at 13:30, yusukesato, 00

comments(0), trackbacks(0), - -

comment









trackback
url:トラックバック機能は終了しました。