<< #0305 | main | #0307 >>

#0306

 



6


フォワードサロンはやたら寒く、僕は猫のようにこれを書く場所をかえる。

彼、はなんでも知っていた。見えること、見えないことも。

僕の住んだ狭い世界。偶然選んだこのフェリーで、とんでもない人と出会ってし
まったものだ。

彼は言う。それは、偶然でなく必然であるんだ。

彼はこの日本で、いや世界で何万何十万分の一の存在なのだろうか、僕も実はそ
の何万何十万分の一かの存在になりたいんだ。
でも僕はなんだ。ただの花屋のバイトだ、ラブホテルの清掃員だ。写真を始めて
たった2年と半年、世間に逆らっているだけの、何も知らない男だった。

彼は言った。それになりたかったお前は、そのなり方を知らなかっただけなんだ
と。素直さゆえに、今のお前はその見えない分岐に立たされているんだと。

なりたかったものになれなかった僕がいるのは分かる。そして僕に残されたもの
と付き合っていくだろうことも、なんとなく分かる。
写真家となってみるのか、文章を書いていくのか、他には何もなりたくないのか、
まだよくはわからない。頭の中で何かが崩れていくんだ。

君にさんざん詰め込まれてきた、あやしい知識たちはこの海の底に消えてくれた
か?、そして君が感じ取るべき、彼の言う真実は、はたしてどこにあるのだ?

小樽へ向かっているアザレア号。その航海は、夜へ夜へとまだ続く。

彼は言う。世の中を正しく知るには、まず見えないものを見る力が必要なんだ。

たぶん僕は、なんとなく気付いている。子供時代をつい最近までやり直した時に
得たものを。彼のように言葉にする力はないものの、どこかで気付いたようなふ
りをしたくなっているのだ。


#0306-02-08 /  Trace

at 08:29, yusukesato, 02

comments(0), trackbacks(0), - -

comment









trackback
url:トラックバック機能は終了しました。